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第5回IPOI北海道支部学術大会

抄録

基調講演 9:10〜10:40
予後不良症例から学ぶインプラント治療の
考察と
その対処法について
糸瀬 正通 先生 
 
 日常臨床にインプラントを応用し始めて30年以上が経過し、過去と現在では全ての面において予知性が高くなっている。 最初はバイオセラムインプラントを導入し、19年前よりオッセオインテグレーションタイプへと移行してきた。インプラントを始めた頃は試行錯誤の中で、主に臼歯部少数歯欠損に植立し、しっかりとしたセントリックストップの確立と機能回復に努めていた。最近では、各種インプラントの基礎研究、臨床報告がなされ、また、歯科用コーンビームCTの開発により適確な診断のもと少数歯欠損から無歯顎に至る全ての症例において、顎口腔系の機能回復、天然歯と区別がつかない審美性の改善など、施術できる時代へなってきた。
 これまで、様々なインプラント症例に挑戦してきたが、当然、全ての症例において成功している訳ではなく、長期経過を見ると予後不良症例を多く経験してきた。ここ数年来、サイナスフロアエレベーション、GBRによる歯槽堤増大術、前歯部のティッシュマネージメントなどの高度な技術を要する症例も要求される傾向にあるので、益々、予後不良症例に対するリスク要因を考慮し、慎重な姿勢でインプラント治療を専念している。最近、長期経過に拘らず発症するインプラント周囲炎に対する治療法が注目される時代になった。種々の論文で様々な手法が氾濫しているが、エビデンスに基づいたインプラント治療に対するリスク要因は遵守しなくてはいけないと考えている。
 今後、益々、種々の手技を駆使した適応症の拡大へと進化していくかと思うが、あくまでも科学的根拠に基づいたインプラント治療が今まで以上に求められることは必至だと考える。
 今回、予後不良症例から学んだ長期安定の条件とトラブルの対処法を提示し、これからのインプラント治療の一助になれば幸いである。



基調講演 13:20〜14:50

私のインプラント治療における
咬合概念について
下川 公一 先生  

 インプラント治療を行う場合、天然歯に与える咬合とインプラントでは何か違いがあるのであろうか。明確な回答はないのであるが、私なりにその違いを意識しながら補綴物を作成している。
 天然歯には歯根膜があるがインプラントにはない。それは、感覚器官としてのセンサーが天然歯に比べてインプラントは乏しいと言えるのかもしれない。そこで、インプラント治療を咬合の立場から考えた場合、①天然歯がインプラントを保護している。②インプラントと天然歯がお互いで保護し合っている。③インプラントが天然歯を保護している。この三つのケースを想定しながら治療を行わなければならない。もし多数歯欠損でインプラントが咬合の中心的な役割をしなくてはならない場合は、代替感覚器官として舌を十分に機能させておく必要がある。そのためには、イニシャル、プレパレーションとして、デンチャーやプロビジョナルレストレーションによるスマイルや咀嚼訓練をあらかじめしておくとよい。今回はそのような考え方の中でインプラントにおける私の咬合治療の概念を解説してみたい。



一般口演 10:50〜12:00


インプラント症例から学ぶ


柳 智哉 先生

 私が口腔インプラント治療を学びはじめてから、17年が経過した。 インプラント治療を取り巻く環境は、この間激変している事を痛切に感じている。 初期の頃は、インプラント治療を行なう歯科医師は義歯がへたくそな変人と呼ばれ、その後インプラントバブルが起こり、インプラント治療が補綴の選択肢の一つとなった。 現在ではインプラント治療の予後不良例を目にする事が多くなり、マスコミによるパッシングも痛烈な物となってきている。 「自分が施行したインプラントの症例ではないから関係ない」等と楽観視しては居られない状況となっているのは周知の事実なのである。
 私が実家の歯科医院にて担当したインプラント患者が続々と10年を経過し、非常に良い経過をたどっている。 反面、早期に骨結合を喪失した症例も存在する。 インプラント治療の歴史は、1990年からの10年は、10年以上骨結合を継続する事。 2000年からの10年は、審美補綴や骨造成法の確立。 そして2010年からの10年間は、インプラントリカバリーの10年になるとミシガン大学のHom-Lay Wang教授に伺った。 2020年まではインプラント治療に対するリカバリーが確立されるという事なのだろうか。
 インプラント治療の予後不良症例に対するアプローチは、「同じ」という事はあり得ない。 同じ症例など存在しないからである。 アプローチは多種多様であるが、リカバリーを行なう上で一番必要なのは知識、そして次には情報の共有なのではないだろうかと考える。 何故このような口腔の状態になったのか? 何故患者はこのような事を訴えるのか? どの様なインプラント治療が施行されていたのか? 現状の口腔内をどのように再補綴する事が最善なのか? 考えるべき事は山積みであるが、本日私が提示する症例へのアプローチが、御聴講の皆様にとってリカバリーの一助となれば幸いである。


当医院におけるインプラント治療およびメンテナンス


林 理  先生、牧島 真美 先生

 歯科界における、この20年間最大のトピック。それはインプラント治療の本格導入ではないでしょうか?
ブローネマルク教授の発見した、「オッセオインテグレーション」のコンセプトに基づく歯科用インプラントが登場すると、世界中で多くの歯科医師がこのインプラント治療を導入し、それまでの歯科医療の流れが大きく変化し始めました。
 たとえば、ブリッジの治療が第一選択だった症例が、インプラントの登場により、臨在歯を切削することなく補綴することが可能になりました。可綴性の義歯が必要な症例にも固定性の治療が可能となり、更に大型の義歯もインプラントを使用する事により、よりリジットな設計で、快適性も数段と良いものが作製出来ます。インプラントは、顎口腔機能の回復や残存天然歯の保全にも役立つツールとして、一般臨床家にも広く取り入れられております。そしてまた、インプラント治療は確実に一般社会に浸透しつつあります。
 しかし、どんなに審美性のよく優れたインプラント治療も、長期間にわたって維持していくためには、継続したメインテナンスが必要なのは言うまでもありません。また、患者もそれについて十分に理解していることも重要です。治療開始からメインテナンスの重要性を患者に繰り返し伝え、個人のスキル、生活環境、様々なリスクファクターや上部構造の状態などを考慮し、リコールの間隔や内容を決めていく歯科衛生士の役割は、チーム医療の中でも重要な位置づけであると考えております。
今回、当医院における歯科衛生士の役割や、実施しているインプラント患者のメインテナンスについてご紹介したいと思います。


インプラント治療を成功に導く様々な試み


坂田 純一 先生



Ⅰ目的
インプラント治療の成功率が90%を超えるようになり、もはや特別な治療ではない今の時代は補綴治療、保存治療、歯周治療、矯正治療などとともに包括的治療の一員として治療計画に組み入れられるようになった。ただし、インプラントは非自己が上皮を貫通するリスクを抱え、オーバーロードによる歯槽骨破壊をもたらす危険性があることを認識し患者の口腔内環境を考慮した施行をしなければならない。今回はインプラント補綴が長期安定を目指すための様々な試みについて私なりの考察も含め皆様と意見を交わしたい。

Ⅱ症例の概要
(症例1)単純な臼歯部1歯欠損症例。インプラント治療としては簡単な症例であるが、長期的な観点から考えると埋入方向、埋入位置に注意する必要がある。
(症例2)下顎片側遊離端欠損を長期間放置していたため、下顎前歯部の叢生が顕著になった症例。将来的に欠損歯列の病態の重症化と咬合の崩壊が懸念された。歯牙の欠損と歯列不正が混在している症例に対する治療法は、インプラント治療と矯正治療を併用する方法が選択肢のひとつに挙げられる。
Ⅲ経過
(症例1)Surgical Guide Systemでフィクスチャを埋入方向及び位置を予定植立部位に理想的に植立した。インプラント体への咬合時水平圧を極力避けるために、対合歯との位置関係から植立位置及び方向を決定した。
(症例2)インプラント治療に先立ち、矯正治療を先行する治療計画を実行した。下顎前歯叢生改善のため、マイクロインプラント使用した矯正治療を行った。34番は抜歯し、34~37番欠損部にGBR併用のインプラント植立を段階法で行い補綴治療を行った。審美的・機能的に満足できる結果となった。

Ⅳ考察および結論
インプラント治療は植立して咬合に関与するだけでなく、確実かつ長期予後を見据えた治療技術が要求されるようになり、顎口腔系機能回復の一手段として認識される時代になってきている。今後、歯科臨床のなかでますますインプラント補綴が応用され成果をあげることは確実であり、それは確かなエビデンスと高度な医療技術に支えられた結果と考えられる。複雑な症例に対しては各分野の知識と技術を集結することが成功への道程と思われる。慎重かつ確実にインプラント治療を行い、最良の成果を挙げて患者のQOLの向上に役立てれば幸いである。

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